プロフィール

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大学卒業後、資生堂に入社 情報システム部に配属

私は大学卒業後、株式会社資生堂に入社し、全国の営業所で使用しているシステムを作っている情報システム部に配属されました。毎日、全国からトラブルに関する問い合わせの電話がたくさんかかってくる中、新入社員の私は、相手が何を言っているのか理解できずに苦労しました。先輩に質問しても自分で調べるよう言われるだけで、仕様書の内容を自力で確認することも多かったです。先方が忙しい時間に折り返し電話して、叱られることもありました。与えられた仕事にやりがいは感じていたものの、残業続きのハードワークで、だんだん疲弊していきました。

仕事への考え方を変えるきっかけになった上司との出会い

入社して4年目に、私が所属していた部署の課長が変わりました。最初に課長と面談した時、異動したいと伝えたのですが、実は私も含めて全員が異動を希望している状況でした。課長は企画書を書いてくるよう全員に伝え、企画会議で一人ずつ発表することになりました。課長はワープロで4行だけの私の企画書の内容を評価してくれ、それを実際にやってみるよう言われて驚きました。この課長との出会いがきっかけで、私の仕事に対する取り組み方が変わってきました。言われたことを淡々とやるのではなく、自分の意見を明確にして仕事するようになったのです。

それから私は会計システムの担当になりました。会計について全く知識がなかった私は、独学で勉強して、簿記3級に合格しました。すると課長は凄いと言ってほめてくれました。この課長の下で仕事をしながら、私は少しずつ前向きな気持ちになり、自分に自信が持てるようになってきたのです。

技術よりも、組織作りやコミュニケーションが大切

入社5年目には、私にも後輩ができました。今振り返ってみると、私はあまり良い先輩ではなかったと思います。後輩に質問されても、自分で調べるようにと、自分が先輩にされてきたのと同じことをしていました。

社内でも中堅のリーダーとして、私はだんだん仕事を任されるようになってきました。自社だけでなく、ベンダーと一緒にプロジェクトチームを組んで、新しいシステムを開発します。こうした中でトラブルが起こるのは、意図がきちんと伝わっていないからです。その都度確認をとり、コミュニケーションをとる必要があります。当時は計画通りに進んでいるかどうかだけをチェックして、仕事をしていました。

私はリーダーとして仕事をしながら、技術以前にチームの体制や進め方そのものが大事ではないかと思うようになりました。その頃社内公募があり、慶応大学の大学院で学ぶことになったのです。当時のテーマは「システムを作る時に一番大切なのは、組織作りではないか」ということでした。

大学院在学中、私はコーチングと出会いました。大学院卒業後に会社に戻った私は国際事業部に配属されました。タイプの異なる先輩と折り合いが悪かった私は、ストレスを感じていました。その時コーチングを初めて受け、質問に答えながら話していくうちに、自分が何をやりたいのかが明確になってきました。そうして会社を辞めることに決めたのです。それからITのコンサルティング会社で2年間ほど仕事をした後、独立しました。

独立後、システム構築から研修の仕事へとシフト

独立後は、システムの構築やコンサルティングの仕事を行っていました。システムを開発する仕事では、一つの仕事が終われば、また次の仕事がスタートして、その繰り返しです。私はこれまでの経験を生かして仕事していたものの、ずっとこの仕事を続けていくつもりはありませんでした。

私はプロジェクトマネジメントの資格も取得していました。プロジェクトマネジメントでは進捗管理だけでなく、利害関係のある人たちどう関わっていくかも体系化されています。私は技術にフォーカスするのではなく、その手前の組織の体制や進め方、人の考え方が大切なのではないかと考えていました。これが体系化されたものが、プロジェクトマネジメントといえます。

ある時、研修講師の仕事をしているITコーディネーターの方と出会ったのがきっかけで、教育業に興味を持つようになりました。そうして企業研修の仕事へシフトすることにしたのです。最初はプロジェクトマネジメントの人間関係のテーマを中心に研修を行っていましたが、だんだん研修テーマや対象階層が広がっていきました。

社内問題を共有して、階層を超えた相互理解へ

従来の研修では、新入社員研修とトレーナー研修の2つの階層に分かれています。新入社員にとってトレーナー社員は、雲の上の人のように、すごい人に見えるものです。

入社3~4年目でトレーナーになった社員は、自分が新入社員だった頃の記憶が薄れています。トレーナー社員は、新入社員がどんなことで悩み、何を考えているのか知りません。その一方で、自分がトレーナーとしてやっていけるかどうかとの不安もあるわけです。

私は新入社員研修でのアウトプットを、トレーナー研修のインプットとして使うことがあります。こうすることで社内の問題を共有し、別の階層に生かすことができます。こうすることで、社内での相互理解につながります。

現在はマネージャーなどの管理職や中堅のリーダーを対象とした研修を行うことが多いです。彼らはいくら正しい知識を教えられたとしても、本人が納得しなければ行動に落とし込むことはできません。

たとえば「怒る」と「叱る」は違うと頭ではわかっていても、実際に現場で仕事していると、腹が立つ時もあるわけです。リーダーとして経験から自分の失敗談を話すことで、受講生との心の距離が近くなります。そうした中で演習をとり入れるなどして、知識と現実とのギャップを埋める研修を行っています。

これまで私は、商社やメーカー、ソフト開発をしているエンジニア、ITベンダー、営業職や技術職、ソーシャルセクターなどさまざまな分野のマネージャーなど管理職の方へのコーチングも行ってきました。さまざまな企業や組織のマネージャーの方々とのセッションを続けるうち、業種に関わらず、組織の問題や人間関係が大きなテーマなのだということを実感するようになりました。

研修は、人が変わるきっかけの一つ

私はシステムエンジニアとして仕事しながら、過酷な現場で疲弊して辞めていく人をたくさん見てきました。真面目な方ほど、自分で仕事を抱え込んでしまいがちです。もっとコミュニケーションをとって、現場での協力体制を築けないかと思っていました。

IT系のエンジニアは技術研修が中心で、対人関係についての研修はあまり行われていません。システムエンジニアなど理系の技術職に従事している方は、自分で調べるのが当然と考え、コミュニケーションそのものに対する関心が薄い傾向があります。私自身、上司や同僚、ベンダーと、どのようにコミュニケーションをとったらいいかわからず、悩んできました。こうした経験があるからこそ「ITの業界をもっと良くしていきたい」と思うようになり、リーダーシップや対人関係、部下育成に関する研修に力を入れるようになったのです。

理系の学部が専攻だったわけでもないのに、情報システム部に配属された私は、当初はあまりヤル気がありませんでした。こんな私でも上司との出会いで、主体的に仕事に取り組むようになったのです。かつて上司の出会いによって私自身が変われたように、研修が一つのきっかけになればいいなと考えています。

現場で仕事をしていく上では、不満もいろいろあります。ビジョンはネガティブな要素の反対側にあります。本当はどうしたいかというビジョンが大切なのです。私自身もコーチングによって、やりたいことが明確になった経験をしているからこそ、他の人がビジョンを描くサポートもできるようになってきました。

私は誰でも、教える側にも学ぶ側にもなり得ると考えています。企業研修では講師として前に立って話しますが、別のテーマだったら逆に学ぶ立場にもなり得るのです。講師から教わるのが学びではなく、答えはその人の中にあるのです。

一人一人のプロジェクトが回るようになる伴走型研修

私は半年間寄り添う伴走型研修で、組織の問題を改善し、成果を実感したことがあります。

新しいものを作る時には、まずやるべきことを洗い出して計画表を作り、進捗をチェックします。こうした仕組みが確立したIT業界での経験は、他の業界での仕組み作りにも役立ちます。チームのメンバーとどう関わっていくかも含めたプロジェクトマネジメントの考え方が、私の研修には生かされています。

30代前半の管理職候補のリーダーを育成する研修では、まず事前課題を出します。業務上の課題や問題を洗い出し、それをプロジェクトとして設定します。自分のプロジェクトがうまく回っていない状態からスタートし、どうプロジェクトを回すかを考えます。

当初は医薬品の研究者なら、研究者特有の問題があるのかと考えていました。ところが実際は、上司や同僚などとの人間関係の悩みが多かったのです。業種に関わらず、人間関係は永遠のテーマかもしれません。

月に1回の集合研修と併行して、個別のコーチングも行うことで、一人一人の考え方や生き方を深く理解して進めることができます。毎月の研修の後は事後課題を出して、上司と話し合ってもらいます。これを半年間継続した後、社長や役員の前で発表するのです。

半年間の伴走型研修を経て、Aさんは社内の管理職試験に合格しました。部下のモチベーションが上がって、部下に仕事を任せられるようにもなりました。Bさんは社内の情報担当として、新しいサイトを企画して立ち上げ、完成させることができました。Cさんは社員全員での対話会を企画して開催し、社内活性化の取り組みを実現しました。

これだけの成果を出すことができたのも、半年間の伴走型研修で、寄り添いながら関わることができたからです。単発の研修でできることには限界がありますので、こうした伴走型の研修の企画やデザインにも力を入れたいと考えています。

自分が変われば、周りも変わり、変化の輪が拡大する

私はこれからの若手人材をどう育成し、リーダーの意識をどう変えていくかに取り組みたいとの想いがあります。マネージャーなどの管理職や中堅のリーダーは、その部署内の影響力が大きい存在です。

たとえば挨拶一つでも、周りの雰囲気を変えることができます。小さなことでも、見ている人はちゃんと見ています。現場の小さなことから変えることで、自分自身も成長します。自分が変われば、周りも変わります。それが周りにとって役に立てることなら、いいことずくめです。マネージャーやリーダーが変わることで、部署全体に変化の輪が広がっていきます。

私は研修というのは、あくまでもきっかけの一つだと考えています。研修で学んだ内容を社内でどう浸透させていくか、社内の人間をどう巻き込んでいくかということを常に意識しています。

かつて上司の存在がきっかけで、私自身も変わることができました。人との出会いは大きいです。私の研修が、管理職やリーダーの方々の行動変容や、社内の組織風土の改善のきっかけになれば幸いです。